後見制度支援信託と後見制度支援預金の違いとは?
家庭裁判所は、後見開始または未成年後見人の選任の申立てがあった場合や、既に後見人が選任されている場合で、「後見制度支援信託」や「後見制度支援預金」の利用に適していると判断したときに、親族後見人やその候補者に対してこれらの制度を紹介した上で、これらの制度の利用を検討するように勧めることがあります。
全国の家庭裁判所における「後見制度支援信託」は利用開始(2012年より運用開始)から時間が経過していますので、全国的に浸透していますが、「後見制度支援預金」も最近では取り扱える家庭裁判所が増えてきています。
「後見制度支援預金」は、東京家庭裁判所(本庁)では平成30年から取り扱いがスタートしました。さいたま家庭裁判所川越支部でも取り扱いできるようになっています。
「後見制度支援預金」はわずか1年程で全国の信用金庫や信用組合、地方銀行に広がり、後見制度支援預金を取り扱う金融機関も増え続けています。
信用金庫等や農漁協同組合等は、『成年後見制度』に対する関心が非常に高いことがうかがえますが、銀行界では、静岡中央銀行や十六銀行など導入済みの銀行はまだ少数に限られ、導入予定の銀行も割合が低い傾向になっています。
しかし、厚生労働省の主導のもと成年後見制度の利用を促進する基本計画(五か年計画)が実行され、金融庁が目標値を設定(KPIを設定)される方向で調整しており、後見制度支援預金を取り扱うことのできる金融機関数は今後増加させてゆく方向になっていくようです。
埼玉県内の信用金庫では、埼玉懸信用金庫、飯能信用金庫、川口信用金庫、青木信用金庫が取り扱っています。(2019年4月現在)
以下では、近年取り扱いが開始された「後見制度支援預金」と「後見制度支援信託」の違いやそれぞれのメリット・デメリット等、後見人になっている方やご家族の方が知っておくべき情報をまとめてみました。
後見制度支援信託と後見制度支援預金の違い
後見制度支援預金は、後見制度支援信託と同じ趣旨の制度ですが、被後見人の財産について、信託銀行等に信託するのではなく、信用金庫や信用組合等に預金して管理するという違いがあります。後見制度支援預金が利用できる場合、後見制度支援信託と比べて、費用や後見制度支援預金口座開設後の手続きの利便性に優れている特徴があります。
両制度の共通点
後見制度支援信託も後見制度支援預金も、後見制度による支援を受ける人(被後見人)の財産のうち、日常的な支払いをするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し、通常使用しない金銭を金融機関に信託する(「支援預金」の場合は預金する)仕組みのことです。
成年後見と未成年後見において利用することができます。保佐、補助および任意後見では利用できません。
親族後見人は、長期にわたって後見制度による支援を受けている人の財産を管理することになります。後見人は必ずしも財産管理の専門家ではないので大きな負担となります。
また、多額の金銭管理がともなう場合には、管理方法などをめぐって親族間のトラブルに発展するおそれもあります。
この制度を利用すると必要な金額分だけ手元に置くことができ、普段使わない分は金融機関で管理されるので、後見人の負担を軽減できます。
払い出し等には家庭裁判所の指示書が必要で裁判所が監視役となっているため親族間のさまざまなトラブルも未然に防ぐことができます。
両制度ともに、裁判所を介して被後見人の財産の適切な管理・利用のための方法です。信託財産(「支援預金」の場合は預金)を払い戻したり、信託契約を解約したり(「支援預金」の場合は預金口座を解約)するには、家庭裁判所が発行する指示書を必要とします。
裁判所の指示書が必要な場合とは?
具体的には、以下のような場合に家庭裁判所による指示書の交付を求める必要があります。
1. 被後見人に多額の出費を要する事情が生じ、親族後見人が手元で管理している金銭だけでは足りない場合
2. 被後見人の施設入所先変更等により日常的な収支状況に変動があり、定期交付金額を変更したい場合
3. 被後見人に臨時的収入があったり、黒字分が貯まったりして、親族後見人の手元で管理する金銭が多額になった場合
4. 被後見人を自宅で介護することになり信託財産の全てをリフォーム代金に充てる必要がある等の理由により、信託契約を解約したい(「支援預金」の場合は預金口座を解約したい)場合
後見制度支援信託とは?
後見制度支援信託を利用する場合、どの銀行に財産を信託するか、また、いくら信託するかといったことについては、原則として、専門職後見人が被後見人に代わって決めた上で、家庭裁判所の指示を受けて、銀行等の間で信託契約を締結します(制度に精通している専門職後見人であれば親族の意見も聞きつつ信託契約を結ぶ銀行を決めると思われます)。
後見制度支援信託を利用して信託銀行等に信託することができる財産は、金銭に限られます。不動産、動産、金銭債権、有価証券といった金銭以外の財産は、後見制度支援信託で信託することはできません。
家庭裁判所が、後見制度支援信託の利用に適しているかどうかを判断する基準は、被後見人がもっている預貯金や上場株式等の流動資産の総額が主な判断基準にされています。
基準額は各家庭裁判所によって異なりますが、さいたま家庭裁判所では、被後見人に1200万円以上の流動資産がある場合に、後見制度支援信託の検討対象としています。
なお、必ずしも基準額未満であれば対象とならないというわけではありません。
金融機関を選ぶにあたって重要なポイント
金融機関ごとに金額は異なりますが、信託する最低金額を設定していたり、口座開設手数料や口座管理手数料が必要な金融機関が多くあります。
金融機関によっては1000万円以下の場合は、口座開設できないところや、基準金額以下の場合に、口座管理手数料が発生するところもあります。
銀行と信託契約をするのは専門職後見人ですが、親族後見人も信託銀行等を選ぶ際に事前に下調べしておき、後見制度支援信託契約をする専門職後見人とよく話し合って選ぶとよいと思います。
重要なポイントは、
① 最低受託金額
② 費用
③ 利便性(店頭でなくても手続きできるか等)
の3点を考慮にいれて選ぶとよいと思います。
後見制度支援信託を利用しないとどうなるか?
親族後見人が後見制度支援信託の利用を希望しない場合は、裁判所が無理に利用に向けた手続きを進めることはありません。
しかし、被後見人の財産を適切に管理するために、裁判官の判断により、後見監督人(後見人の事務を監督する人)が選任されることがあります。
親族後見人が後見制度支援信託の利用を拒否する場合、多くは後見監督人が選任されることになります。
後見監督人が選任された場合は、後見人は、親族後見人は、後見監督人に対して定期報告をしなければならなくなります。
後見監督人に対して報酬が発生します。概ね月額1~3万円くらいの報酬が発生するようになります。
後見制度支援信託のメリット
両制度の共通点でお伝えしたメリット以外としては、専門職後見人が選任された場合、親族後見人自身で後見制度支援預金の開始手続きをする必要はなく、専門職後見人が口座開設手続きをしてくれます。
また、定期的に払い出す額が設定された場合、被後見人の毎月の収入や支出を専門家が調査した後に専門職後見人が裁判所に意見書を出して決定されるので、適正な額や方法が設定されます。
後見制度支援信託のデメリット
専門職後見人が口座開設手続きをして辞任した場合、専門職後見人に報酬が発生します。
概ね10~30万円くらいのようです。(報酬は裁判所が決定し、被後見人の財産の中から支払われます。)
専門職後見人が辞任し、親族後見人のみの場合、たとえば急な出費や後見人が手元で管理している金銭だけでは足りない場合等に、信託財産から払戻しを受けるためには、親族後見人自ら、裁判所に理由書等の提出や金融機関に対して指示書による払い戻し手続きが必要になります。
金融機関が遠方であったり窓口のみの取扱しかできない金融機関の場合は、手間や負担が増えます。
金融機関に対する報酬(契約締結手数料・解約手数料等)・口座管理料も発生します。金融機関により、発生要件、金額は千差万別です。金融機関ごとに調べる必要があります。
被後見人に馴染みのない金融機関に多額の金額を管理してもらうため、被後見人に説明する際にトラブルになる可能性があります。
後見制度支援預金とは?
「後見制度支援預金」は、「後見制度支援信託」同様、成年後見と未成年後見において利用することができます。保佐、補助および任意後見では利用できません。後見制度支援信託は、被後見人の財産の適切な管理・利用のための方法の一つです。
「後見制度支援預金」を利用すると、信託財産を払い戻したり信託契約を解約するには、家庭裁判所が発行する指示書を必要とするのも「後見制度支援信託」と同様です。
後見制度支援預金のメリット
両制度の共通点でお伝えしたメリット以外としては、後見制度支援預金では、専門職後見人の選任を不要としており、専門職後見人等が選任されなければ報酬が不要です。
後見制度支援信託の取扱金融機関が都市部に集中している信託銀行等に比べ、後見制度支援預金を取り扱う金融機関は地域密着型の信用金庫等ですので利便性に優れています。
預け入れ金額の下限が無く普通預金金利型の場合、普通預金扱いで利息が付きます。
信用金庫や信用組合等に対して、開設時にかかる口座開設手数料や口座管理費が後見制度支援信託よりも低額になる場合が多いです。(金融機関により異なります。)
後見制度支援預金のデメリット
専門職後見人が選任されないので親族後見人自身で後見制度支援預金の口座開設手続きをしなければならないのがデメリットといえるでしょう。
後見制度支援信託同様に、被後見人に馴染みのない金融機関に多額の金額を管理してもらうため、被後見人に説明する際にトラブルになる可能性があります。
また、後見制度支援預金を取り扱う金融機関が増えてきていますが、この制度はスタートしたばかりで、すべての金融機関が取り扱っているわけではなく、地域によって利用できなかったり、近くの金融機関が取り扱っていないなど利用しづらい場合もあるかと思われます。
今後取扱い可能な金融機関は増えていくと思いますので、このデメリットは縮小していくと思いますが、現時点では各家庭裁判所ごとで運用方法が異なり、一部の金融機関のみの取り扱いを認めている場合もありますのでどの金融機関が利用できるのかなど管轄の家庭裁判所に確認する必要があります。
後見制度支援預金の利用に際し、その他注意点
後見制度支援預金を利用するにあたり、概ね普通預金金利型か無利息型の選択ができます。預金保険制度の利用による全額保護の対象にするかしないか、開設時における金融機関の選定や利便性等注意が必要な部分もあります。
また「後見制度支援信託」にも言えますが、ご本人が準備されている遺言の内容が実現されなくなる可能性もありますので利用については慎重にすすめることも必要です。
まとめ
親族後見人が使いやすい金融機関が後見制度支援預金を取り扱っていて、管轄の家庭裁判所でも利用でぎるのであればこれから長い期間、後見人として管理していくのであれば費用や使いやすさの点で見ると後見制度支援信託よりも後見制度支援預金の方が、親族後見人にとって利用しやすいのではないでしょうか。
また、預金保険制度を利用するかしないかについては、後見制度が被後見人の財産を増やすのが目的ではなく、被後見人のために財産を保護することが主目的であるので、万が一金融機関がなくなってしまっても預金が全額保護される無利息型がいいと思います。