法定相続情報証明制度の上手な使い方

2018年10月5日相続

役所窓口イメージ

法定相続情報証明制度

法定相続情報証明制度とは?

法定相続情報証明制度は、2017年5月29日に開始した比較的新しい制度です。

この制度は、近年、相続登記が未了のままの放置されている不動産が増加しおり、未了の相続登記はいわゆる所有者不明土地問題と空き家問題の一因となっていることから、放置されている相続登記の数を削減させるために相続登記促進対策の一つとして法務省が創設した経緯があります。

しかし、法定相続情報証明制度は登記所における手続だけでなく、相続手続きの簡素化・効率化・処理の高速化・円滑化を図り、金融機関などの相続手続きの受付窓口と相続手続を行おうとする相続人双方の負担軽減も図られた制度になっています。

この制度が開始される以前は、相続手続きをする際、窓口において相続関係を証明するために、窓口に相続書類を提出するたびに戸籍謄本等の大量の書類を提出する必要がありましたが、この制度の創設によって相続関係情報を簡単に証明できるようになりました。

ひとたび相続が起きると、不動産についての相続登記、自動車の名義変更、預金の解約、株や投資信託の売却、保険金の請求等など、役所や金融機関といった手続ごとに異なる受付窓口でいくつもの手続きをしていくことになります。

この制度が出来る前は、相続手続きに必要な戸籍謄本等の書類の束を持って、登記所や金融機関を回っていました。ケースによっては、戸籍関係の書類だけで4~5センチの厚さになる書類の束を各受付窓口に提出します。受け付けた窓口も大量の戸籍を丹念に一つずつ読み解き確認していく必要がありました。

しかし、この法定相続情報証明制度を利用すると、書類の束が「認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写し」という1枚の紙になります。

このように戸籍などの書類の束を簡略化する仕組みが法定相続情報証明制度です。

なお、この制度の利用は任意なので、制度を利用せず、従来通りの方法によっても構いません。
また、この制度を利用しても、遺産分割協議書や印鑑証明書、相続登記の申請書といった書類も不要になるわけではありません。

この制度は全ての相続手続きにおいて利用できるものではなく、一部利用できない手続きもあります。

この制度を利用するメリットは?

  • この制度を利用すると各機関で同時に手続き出来ます
    従来の方法では、原則として各機関同時進行するためには、同時進行したい窓口数の相続関係書類が必要になります。(相続手続きを同時進行したいときとは、例えば特に事情により手続を急いでいるケースや郵送し受け付けてもらえないケースがある場合があります。)
    この制度を利用すれば、相続関係書類一式を1部用意すれば、認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しを必要数取得できるので、認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しを必要部数を取得してから複数の機関で同時に手続できます。
  • 戸籍関係書類の取集費用を抑えられます
    戸籍謄抄本等は、1通ごとに発行手数料がかかりますが、認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しの発行手数料は無料ですので、複数の窓口を同時に進めたい場合でも相続関係書類は1部のみ取得し、発行手数料が無料である認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しを必要通数用意すればよく戸籍等の収集費用を大幅に抑えることができます。
  • 事務手続きの時間が短縮できます。
    相続手続きに必要な書類は、通常受け付けられた機関の審査や内部手続きが全て終わってから返却されることが多いので、相続関係書類が1部しかない場合や複数の機関に提出したい場合は、提出している機関の手続きが終わるのを待ってから次の機関に書類を提出していかなければならず、非常に時間がかかります。
    しかし、認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しが複数あれば、相続手続きを同時進行させることでスピード化できます。また、受け付けた機関の窓口でも戸籍を一つずつ丹念にみる必要がなくなるので、受付機関にとっても一手続き当たりの事務処理にかかる時間も短縮化でき、従来の方法よりも早く手続きが進みます。

認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しの取得方法

認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しの見本認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しの見本(イメージ):(法務省のウェッブサイトより引用)


認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しの交付手続きは、次のような流れになります。

Step 1. 必要書類の収集
      ↓
Step 2. 法定相続情報一覧図の作成
      ↓
Step 3. 申出書への記入し登記所へ提出

認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しを交付してもらうのに必要書類は?

 必要書類は下記の表のとおりです。

 

必要書類
被相続人の戸籍謄本と除籍謄本本籍地の役所
被相続人の住⺠票の除票

または戸籍の附票

最後の住所地の役所
本籍地の役所
相続人全員の戸籍謄本または戸籍抄本本籍地の役所
申出人の氏名と住所を確認できる公的書類
申出人の氏名と住所を確認できる公的書類には次のようなものがあります。
運転免許証のコピー
マイナンバーカードの表面のコピー
住民票の写し
※ この書類は返却されません。

下記は、任意で必要となるものです。

任意で必要となるもの
(住所を記載する場合)

相続を受けるすべての人の住民票の写し

最後の住所地の役所
(誰かに任せる場合)

委任状

(誰かに任せる場合で司法書士や行政書士などのとき)

資格者代理人の身分証明書

本籍地の役所
(誰かに任せる場合で親族が代理人のとき)

申し出人と代理人の親族関係がわかる戸籍謄本

認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しはどこで発行してもらえる?

認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しは、管轄の登記所で発行してもらえます。
認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しを発行してもらうには、相続手続きに関わる戸除籍謄本等の必要情報を集め、相続関係を一覧に表した法定相続情報一覧図を作成し、管轄の登記所に申出書を提出することで、登記官が無料で交付してくれます。何通でも無料で交付してくれます。条件がありますが再交付も可能です。

提出方法は、直接登記所の窓口に行くか郵送で申出書を提出することもできます。書類の審査があるため、提出した日に認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しの交付は難しいでしょう。管轄により異なりますが、交付予定日をお知らせしてくれます。通常交付されるまで1週間くらいかかることが多いようです。

認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しの交付を送付してほしい場合は、申出書提出時に返信に必要な郵券を貼った返信用封筒やレターパックを提出すれば、郵送交付してくれます。提出する登記所の管轄については、この後説明しています。

法定相続情報一覧図とは?

申出書と一緒に提出する法定相続情報一覧図とは、法定相続人が誰で各法定相続人は被相続人とそれぞれどのような間柄なのかという情報を一覧化した図のことです。

 

この法定相続情報一覧図の写しが、従来の戸籍謄本等の大量の書類の代わりに、法定相続情報を証明してくれるので、相続手続きを円滑に進めることができるのです。

法定相続情報一覧図を作成するには?

法務局のウェッブサイトに主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例のページが用意されているので
比較的容易に作成することができます。

 

申出書を提出する管轄の登記所は?

申出書の提出できる管轄はあらかじめ決められており、次のうちの自己に都合の良いいずれかの登記所を選んで提出できます。

 

申出書の提出できる登記所被相続人の死亡時の本籍地
被相続人の最後の住所地
申出人の住所地
被相続人名義の不動産の所在地

 ※ 全国の登記所とその管轄エリアは、法務局ウェブサイトの「管轄のご案内」ページで確認することできます。

認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しを使用する上で注意する点

法定相続情報⼀覧図は、相続関係説明図と少し異なるところがあります。
それは、認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しが現在の相続人が誰であるのかを証明するものではないということです。

例えば、相続人の中に放棄した者がある場合には、相続放棄したことが書かれている相続関係説明図が別途必要になりますし、相続手続きでは従来通り、相続放棄申述受理証明書等も必要です。

また、数次相続の場合も一枚の法定相続情報一覧図にすることはできず、一枚ずつ分けて作成する必要があります。

 

この制度を利用するデメリットは?

法定相続情報証明制度のデメリットは、法定相続情報一覧図と申出書を作成し、申出を行う手間とその分の時間が生じることです。
ただし、その他の必要書類は相続手続きを行う上でいずれにせよ必要になるものですので、必要書類の収集の手間は法定相続情報証明制度を利用することのデメリットとは言えないでしょう。

この制度の創設当初は、この制度が利用できる金融機関が少なく、いままでと同じ方法で戸籍等相続関係書類を提出しなければならない窓口が多かったものの、現在では比較的この制度が浸透してきており受付してもらえる金融機関は多くなっています。

 

法定相続情報証明制度を上手に利用できるケースとは?

以上のように法定相続情報制度をご紹介しました。相続手続きしたい機関の窓口が1~2箇所ですと認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しを交付してもらう手間とその分手続に必要な時間が増えるのでメリットはほとんどないと思われます。

認証⽂付き法定相続情報⼀覧図の写しは、ご自身で交付手続きをせずに行政書士や弁護士、司法書士、税理士等に依頼すれば代理で取得してもらうことができます。

ただし、1~2箇所の場合、上述に述べたとおりメリットが限定されてくるので、費用対効果を考慮に入れ専門家に依頼する報酬を含め比較検討する必要があります。

相続登記を司法書士に依頼することが決まっている等、専門家に依頼することが決まっているのであれば、セットで依頼すれば費用が安くなりメリットになるかもしれません。

 

下記のようなケースであれば、この制度を利用するメリットは十分あると思います。特に予定している提出窓口が多い場合や取らなければならない書類の通数が多いほどメリットはあります。

相続手続きしたい機関の窓口が3箇所以上ある。
相続手続きしたい機関の窓口が3箇所以上あって、1箇所ずつ手続をするのは避けたいが、戸籍等の取得にかかる費用は節約したい。
相続税の申告期限まで預金を現金化したい等、何らかの事情で相続手続きを早く完了させたい。
相続手続きしたい機関の窓口が複数あり、かつ、取らなければならない相続関係書類の通数も多い。

 

法定相続情報証明制度についてのメリットをぜひ活用していただき、少しでも相続手続きを楽に終えられるとよいですね。

注意すべき点
法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合があります。
手続等を行う際は、行政書士、司法書士、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。

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Posted by 栗原誠