相続でもめないための公正証書遺言を作成してほしいと思う方とは?
なぜ遺言を書くことが、相続の際にトラブルの防止になるのかというと、
遺言には、次のような効果があるからです。
遺言の効果
遺言には次のような効果があると言われています。
1. 遺言を書くことで財産を残す人の意思を実現させる
2. 相続トラブルの防止
3. 相続手続きの簡略化、円滑化や迅速化ができ相続人の負担軽減になる
4. ケースにより二次的費用の発生を防ぐことが出来る
相続トラブルが発生しやすいケース
次に掲げるケースに該当する方は、相続トラブルが生じやすい方ですので、ご自身とご家族のためにも遺言を書くとよいと思います。
自分の意思で財産の配分方法や割合を決めたい方
自分で財産の分配方法を決めておきたいときは、誰に何をどれだけ相続させるかを遺言に書いて明確にしておく必要があります。
財産の配分や割合を決める際には、遺留分を侵害しないよう注意を払うようにしましょう。遺留分を侵害する配分にすると遺留分権利者から遺留分を侵害している相続人に対して遺留分減殺請求されたして後に相続間でトラブルになりますので注意する必要があります。
祭祀財産についても、遺言により、誰に祭祀を主催して欲しいか書いておくことができます。
このように特定の相続人に財産を残すようなときは、遺言を書いた理由や経緯、ご自身の気持ち、相続人への感謝の気持ちなどをあわせて書いておくことをおススメします。遺言に「付言事項」を書いておくことで、相続人間での無用なトラブルを未然に防げる可能性があります。
遺言を作成せず相続の分配方法を決めているだけ、子どもたちに伝えただけ、メモを残しただけでは法的な効果はありません。
相続人間の仲が悪い方
遺言がなければ相続人全員で遺産分割協議を行うことになるため、相続人同士の仲が悪いときは揉める可能性が高くなります。
子供同士の仲が悪い場合は、相続人でない兄弟の妻(夫)が意見して揉めるケースも少なくありません。遺言を1つ書いておくことで、紛争防止に役立ちます。
親の影響がなくなることで日頃仲が良かった兄弟(姉妹)が突然、仲が悪くなるケースも私は多く見てきていますので、予想することは難しいですが相続人間の仲がよいケースであっても遺言が有効な場合はあります。
夫婦間に子どもがいない方
ご夫婦の間に子供がいない場合、相続人は残された妻(夫)と義理の父や母、もしくは義理の兄弟達(義理の兄弟が既に亡くなっている場合は、甥姪達)です。
通常全員で遺産分割協議を行う必要があります。そのため夫名義の自宅や預金を妻名義に変更するには夫の両親または兄弟(ケースにより甥姪もなる場合もあり)の同意が必要になります。
核家族化が進み日頃から相続人間で交流がない場合やあっても関係があまり良くない場合は遺産分割で揉める可能性が高くなります。
ご夫婦の間に子どもがいないケースでは、例えば父方の親族が代々受け継いできた父方の財産が、配偶者の親族に受け継がれてしまうことになる場合もあるため、遺言がないとあなたの意思に反する場合も起こりうるなどの問題もでてくるかもしれません。
離婚した相手との間に子供がいる方
離婚した相手との間に子供がいる場合、何十年も音信不通であったとしても、その子供は相続人の一人になります。
再婚されている方の相続人は、現在の配偶者と再婚者との間に子供がいる場合はその子供も相続人になります。離婚した相手との子供も相続人になります。
これらの相続人間で遺産分割協議を行わなければなりません。相続人同士の関係を考えると、遺産分割協議で揉める可能性は非常に高くなります。
そのため離婚した相手との間の子供に相続させたくない場合や相続財産の分け方を調整したい場合は遺言を書いておく必要があります。
相続人に認知症や障がいにより判断能力のない人がいる方
遺言がなければ相続人全員で遺産分割協議を行うことになりますが、相続人のうち一人でも判断能力のない方がいると遺産分割協議ができません。
認知症や障がいによって判断能力に問題がある人は遺産分割協議に参加できないので、その人の代わりに遺産分割協議に参加してもらう人を家庭裁判所に選んでもらう必要があります。このような制度を成年後見制度といい、家庭裁判所に選ばれた人を成年後見人といいます。
成年後見人を選んでもらうための申立準備から遺産分割をはじめるまでは、数か月から半年程度かかることもあるので、その間預金を解約したり、不動産などの名義を変更をすることができません。
また、行政書士や弁護士、司法書士などの専門家が成年後見人に選ばれた場合は報酬を支払う必要があるので、年間数十万円単位の費用がかかることになります。さらに、遺産分割協議が終了しても成年後見人はそのまま残されるのでその点でも注意が必要となります。
私はこのようなケースで遺言がないケースを沢山見て来ましたが、遺言があるのとないのとでは相続手続きの迅速化だけでなく金銭面でも大きな差になってきます。
相続人がたくさんいる方
分かりやすいケースですが、相続人の人数が多いと遺産分割協議が大変です。相続人が全国各地に住んでいたり、海外に住んでいることもあるかもしまれせん。
戸籍の収集も大変になります。相続人が複雑な場合は、戸籍の収集だけでかなりの時間と費用がかかります。
相続人が海外に住んでいる場合は、書類を海外に送付する必要がありますし、在留証明書やサイン証明書が必要なため、相続人も大使館等に足を運ばなければならず、時間がかかります。
遺産分割協議に参加する人数が増えればそれだけ協議で揉める可能性も高くなり時間もかかります。
遺言のなかで遺言内容を実行してくれる遺言執行者を決めておくことで、スムーズに相続手続きをすすめることができます。
不動産を所有している方
例えば、相続財産の割合の多くが不動産で、それが自宅である場合、売却しないと相続人間で平等な分配をすることが難しいケースも少なくありません。
同居している相続人にとっては住むために必要な場所なので、売却して相続人全員で分配するとなれば非常に困ることになります。
また、不動産をいくつか所有している場合でも誰が、どの不動産を相続するかといった争いになることがあります。
1つの不動産を仲良く共有するという選択肢もありますが、次のような理由からオススメできません。
・ 維持管理に関する意見や費用で揉めて、維持管理に支障がでる
・ 将来売却する際に全員の同意を得られないと売却できない
・ さらに相続が発生すると共有者が増え、管理が大変になる
・ 不動産は物理的に分けることができず、共有すると現金化が難しくなる
個人事業主の方や会社経営されている方
事業承継対策に遺言は有効です。事業を承継してほしい人に事業をスムーズに引き継いでもらうには、遺言を書いておきましょう。
事業承継を迅速に進めることは、会社の存続にも直結します。事業の存続に必要な財産(株式、機械や設備、事務所など)があるので、必要な財産を承継する人にスムーズに移行できないと、経営に悪影響が出てしまうことになるからです。
農家を営む方の場合も、農業はある一定以上の面積の農地がなければ事業として成り立ちませんから、農地や家屋、農業器具などを相続人で分割してしまうと、事業が継続できないケースが出てきます。
もし、遺言がなく遺産分割協議をすることになると、相続財産に占める事業財産の割合が大きい場合、相続人間で相続の分配が平等にできなくなるため、揉めることも少なくありません。
法定相続人以外の人に財産を残したい方
長年、一緒に生活しているなど事実上の婚姻関係があっても婚姻届を提出していない内縁の妻(夫)に財産を渡したい場合や、お世話になった子供の嫁(夫)や知人友人に財産を渡したい場合や、法定相続人ではない孫や兄弟に財産を渡したい場合には遺言書を書くことで実現できます。
あなたから相続人に口頭で伝えておくだけでは法的には何の効力もありません。また、あなたが相続人に伝えたことを相続人が実行するかはわかりません。
たとえ、実行されたとしてもそのような個人的なやり取りだけでは税金面では税務署に贈与と認定され、せっかく財産をもらってももらった人が多額の税金を支払うことになる可能性もあるので注意が必要です。
財産をもらう人も、本当にもらっていいのかどうか迷うようなケースもあると思うので、もらう側のことも考え、意思を明確にしておくことが大切です。
相続人がいない方も注意が必要です。
その方の相続財産は(特別縁故者もいなければ)国が取得することになります。
国庫に帰属するのを避けたい方は遺言を書く必要があります。
慈善団体に寄付したい方も遺言を書くことで実現できます。
相続人に行方不明の人・生死不明の人がいる方
遺言書が無い場合の相続では遺産分割協議による話し合いで相続財産の割合を決めるのが普通です。
しかし、もし相続人のなかに行方不明の方がいる場合、裁判所への申立て(失踪宣告の申立や不在者管理人選任の申立)など面倒な手続きを行うことになり、手続き費用もかかり、手続きが滞る期間の長期化が想定されます。
まとめ
これまで遺言を特に書いてほしいと思われる方というテーマで紹介しました。
冒頭、遺言の効果について触れましたが、遺言を作成するのは、遺言者の意思の実現だけではありません。
遺言を残したか残さなかったかにより、あなた自身ではなくあなたが亡くなった後、相続人である残された家族たちに影響が及びます。
一つでも該当する事情があれば相続財産の大きさに関係なく、相続トラブルに発展する可能性があるので相続トラブルを防止させる観点からも遺言を書いておくことをオススメします。
どこに財産があるのかわからないと困る相続人、態度が急変する相続人など、ご相談に来られる方々の様々なケースを私は見てきました。
遺言がない場合、相続財産の調査はゼロからスタートしなければならず、相続人にはかなりの負担となります。
上記のご紹介したケースに該当しなかったとしても、例えば認知症になってしまったなど将来的に状況が変化したり、リスクが潜んでいる可能性もあります。
相続を契機として家族の円満な関係が壊れてしまわまいようにするためにも遺言について考えるきっかけにして頂ければ幸いです。